大江戸線パブリックアート
会員 趨 慶姫
 
昨年12月に全線開通した東京都営地下鉄「大江戸線」は、全駅改札口付近にパブリックアート「ゆと りの空間」が設置されている。新設26駅・29作品の内、本学会員の伊藤隆道氏、樋口正一郎氏、渡辺豊重氏と私が関わっており、写真集「駅デザインとパブリックアート」も発行されているのでご招介したい。
 
 東新宿駅 渡辺豊重
 
大江戸線は路線図が6の字形をしており、都営12号線として東京23区の西部で既に運行していた放射部に対して、この26駅は環状部にあたる。縦長のJR山手線の環に比ベ、大江戸親の環は横長で隅田川と交差し、山の手から下町までかつての江戸の中心を走る。この名称が公募で決まった時、私などは時代劇のタイトルのようで気恥ずかしいと感じたが、今は言い得た線名だと思う。駅名を決めるのに地元の思惑などがからみ、複数の町名を重ねた結果、利用者には分かりにくくなった所もあると新聞記事にあったが、耳に新しい駅名にはそれぞれの地域特性や歴史背景が感じられる。
都心に位置しながらも交通不便地域だったエリアも通る大江戸線環状部は、東京全体の活性化に役立つと期待され、そのため親しまれ利用しやすい地下鉄を目指した。地域の伝統や個性に呼応した優れたデザインにより、駅が地域の中心的存在となり、さらには全線の魅力につながることから、計画の早い時点で駅デザインの重要性が着目された。
 
麻布十番駅 伊藤陸道
 
そこで駅舎設計は公募プロポーザル方式で選ばれた15の設計会社に委託された。前述の写真集巻頭にある建築史家・大川三雄氏の「土木と建築の融合を求めた大江戸線」の文によれぱ、コンペ時点での、興味深い建築的な視点からの新しい提案が、「土木技術者の手による基幹構成に基づき、建築家がインテリア空間を仕上げる、という協働態勢による方式の限界」のため影を潜めてしまったとある。どのような案だったのか知り得ないが「地上の光を地下空間に採り込もうとする提案があった」という。空間における光の存在をテーマにガラスを主素材として造形活動を行っている私には特に気にかかる。
話が逸れるが、8年前、横浜市営地下鉄・北新横浜駅にガラスのレリーフを設置したことが、私が環境芸術に関わる第一歩だったが、その時のコンセプトがまさに「地下鉄の駅空間にもっと光を」というものだったからである。
私の仕事をプロデュースされたデザイン事務所が、別の地方都市の地下鉄建設で試みようとして実現しなかった"地上の光を地下に"という提案や、ヨーロッパの地下鉄駅空間にふんだんにガラスが使われていることをふまえて、北新横浜駅ではガラスを用いたアートその役目を担わせることを意図されたのだった。
大江戸線の駅デザインは、上記のように、基幹構成の提案に建築家が関わるというところまで至らなかったという。確かに各駅個性的で、設計者の思い入れがベンチや照明などディテールまで行き届いている所もあり、使われている素材も様々で興味深い。ただそのような感覚が表面的な部分にとどまらず、立体空間の構成そのものに生かされたらと思う。これは設計者ご白身達が最も望んでおられたことだろうが。
 
清澄白河駅 糧口正一郎
 
「ゆとりの空間」は、地下空聞の狭隘隔性と閉塞感を緩和し、乗降客にゆとりや潤いを与えるために企画された。放射部12駅にも同様のものがあるが、両国、清澄白河の2駅の立体作品と同じく清澄白河駅の樋口氏による軌道対向壁アートデザイン以外は全て改札口付近壁面(幅約10m・高さ約2.5m)に設置されている。制作・設置費用は企業などの協賛(寄贈)により賄われている。環状部の29作品のうち、約半数はコンペ方式で選定され、残りは現物寄贈方式である。作品には、審査の基準にある「駅舎デザインとの整合性、駅所在地域の地域特性に配慮していること」などが求められている。
各作家によってアプローチのされ方は様々だろうから、一概には言えないし私の数少ない経験の範囲ではあるが、大江戸線に限らず、このようなパブリックアートのコンペの場合、アートプロデュースをする企業から作家に提案の依頼があり、作家はそれによってコンペの存在を知るという状況ではないだろうか。作家は設計会社とは異なり、多くの場合個人のため、直接クライアントから受注することは困難であるし、また諸条件の交渉や交通整理にはプロデューサーの存在は有り難い。実務的にはそのような企業の仲立ちが必要だとは思うが、コンペ参加の段階ではもっと作家に対してオープンでもいいのではないのだろうか。
これはコンペ参加企業・作家の選択についてだけではない。私は幸い、今回参加することができたが、欲を言えば与えられた空間に設置するだけでなく、作家の側から設置環境自体を提案できたらどんなに良いだろうと感じている。往々にして作家がプロジェクトに参加する段階では、ほとんど空間はでき上がっており、与えられた額縁の中に絵を入れるだけである。大江戸線の場合、駅舎の設計者自身が「ゆとりの空間」も手掛ける例が複数あるが、作品に駅デザインとの整合性を求めるのであれば、設計段階からアートをどのように取り入れるかという検討が作家も交えてなされるのが理想だろう。予算のあるプロジェクトではなかったため、駅によっては協賛が決まるのがぎりぎりになったというような現実では望むべくもないが。このような疑間に比べては、非常灯が作品に重なってしまう事、照明すら自由にならない事等の問題は些細なことかもしれない。
 
蔵前駅 趙慶姫+ヤマザキミノリ
 
私はパブリックアートは鑑賞の対象として存在するのでなく建築物であれはその構成物として、野外であれば風景にとけ込むようなものとして、声高に主張するのでなく気付かないうちに浸透するものであって欲しいと思っている。(だから自分の作品の前に掲示板が置かれていたからといって憤慨してはいけなかったのだ)そのためにも与えられたフレームの中だけでなく、フレーミング自体に作家も意見を言えるような環壊を作っていくべきであろう。このことは私が本学会での活動を通して考えていきたいテーマである。
大江戸線において、建築と土木の境界が「地上と地下という役割分担から一歩進んで建築家が駅空間に入り込んだこと」によって変化したという。パブリックアートについても作家が自らの役割分担に甘んじていてはいけないのではないか。この仕事の真っ最中にはそこまで思いが至らなかったが、先日全てとはいかなかったが、20近い駅と各駅の作品を見て回って、我が身を振り返って反省している。
また12月16日、日本建築学会等の主催で「交通空間のデザインの未来」と題したシンポジウムが開催され、問題提起として1.長期にわたる建設において発注者側の担当者が、組織が持つ宿命とはいえ短いサイクルで転勤することに伴う問題点を補うためのスーパーバイザーの存在や、2.各駅舎に開業直後のPRが多いとはいえ、無造作に貼られたポスター等を今後どう是正していくか、また3.公共空間である駅舎におけるパブリックアートの質を向上させていくにはどうすべきか等があげられたということをご招介しておく。
 
会員の皆様には、ぜひ大江戸線のパブリックアートをご覧になってご意見を聞かせてください。(7月の大会の際、東京探査の企画で一部大江戸線に乗る事もあると思います。)大会当日、会場でこの写真集を販売する予定です。また都営地下鉄の全売店、営団地下鉄の主要駅売店でも販売しているとのことですが、直接発売元に注文することができます。写真集の購入者を対象とする解説付き見学ツアーも3月まで開催しているとのことですのでお知らせします。
 
大江戸線26駅写真集「駅デザインとパブリックアート」
A4判192頁 定価:2,460円
発売元:東京都地下鉄建設(株)総務本部PT係
〒112-46002 東京都文京区小石川1-15-17
TN小石川ビル7F TEL. 03-3816-4205
担当:石村または金澤
http://www4.justnet.ne.jp/~koujithousei/
●ジャパンテザインネットで大江戸線の駅デザインが紹介されています。2月21日より毎月更新で5回にわたり毎回5〜6駅をとりあげる予定です。こちらも御覧下さい。
http://www.japandesign.ne.jp/